日本発グローバル企業の経営者ブログ

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新宅塾『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』

伊藤光一朗、光文社新書


経営の現場では常に原因の解明と対策の実施に追われる。例えば、ある事業が急激に業績不振に陥って対策に迫られたとしよう。長年の懸案ならば原因は分かっているかもしれないが、急激な悪化の場合は短期期間でそれなりの分析が必要だ。
それは意外と難しい。そこには、経営者の主観も入るし、組織風土から来るバイアスもあるだろう。しかし、限られた時間で判断を下さなければならないのが現実だ。
原因と結果の関係を解き明かすのは理論的にも難しい事が理解されておらず、安直な推論が世に溢れている。数ヶ月前、ビッグデータとAIを使って日本社会の将来を予測した番組があった。『40代単身世帯』が増えるほど社会問題が深刻化するという内容が注目を浴びたが、因果関係についての説明は貧弱だった。それは因果関係の立証の難しさを考えれば当然で、ビッグデータ、AIを使ったからといって因果関係が説明できるわけではないのだ。
本書は、因果関係推定の基礎に立ち返って分かりやすく説明しており、ビッグデータ、AIの正しい使に向けた良い指針となっている。
因果関係を立証する方法は、大きく分けてランダマイズに条件を変えて結果を見る社会的実験と、特殊な制度に対する人々の反応を分析する自然実験しか無い。
詳細は本書に譲るが、因果推論によって以下のような興味深い現象が観察れれている。
-オバマ大統領は2012年の選挙で、ランダマイズド試験を実施して最適なWebデザインを採用し、選挙資金の増加に成功した。
-Uberの価格変動制のもとで顧客の反応を分析する事で、ある状況下での需要曲線を実際に描く事ができた。
-重量別の燃費規制のもとで、メーカーと購入者は燃費規制の緩い重い自動車を選択し、自動車に関する社会的費用はかえって増加した。
以上の例からも分かるように、正しい推定方法でビッグデータ、AIを活用すると、政治、行政、ビジネスの世界で多くの有益な知見が得らる。
今だからこそ、目を通しておきたい、お勧めの一冊だ。