日本発グローバル企業の経営者ブログ

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論説:減損テストに内在するリスク

近年、日本企業による買収が大きな減損を発生させている。マスコミの報道では、買収時の楽観的見通し、高値つかみ、デユーデリの甘さ、買収後統合(PMI)の失敗などがその原因とされ、日本企業による買収の稚拙さが指摘されている。

確かに、買収時の検討の甘さからくる企業・事業価値の過大評価や、見過ごした偶発債務などによるものは、買収側のレベルアップが必要とされる問題だろう。

実は、状況はさらに複雑化している。多くの企業、特に海外での事業拡大や買収を盛んに行う企業が、国際会計基準(IFRS)を採用するようになって、新たな減損リスクにさらされるようになった。

国際会計基準では、買収評価とは異なるディスカウントレートを使用して、買収価値の再評価をする。買収評価を行う際、企業は自社の加重平均資本コスト(WACC)から出発し、一定のリスクファクターを上乗せしてディスカウントレートを設定する。買収対象の将来キャッシュフローをこのディカウントレートで割り引いて現在価値を求める。これが買収価値評価の基準となる。もちろん、他にも類似取引のEBITDA倍率などをも参考にしながら、買収交渉が行われる。

IFRSを採用すると、買収後IFRS基準の減損テストが毎年行われることになる。問題は、減損テストに使われるディスカウントレートが、買収評価のディスカウントレートと異なることだ。IFRSの減損テストでは、買収対象の地域構成から通貨別ディスカウントレートを設定し、現在価値を計算し、それを基準に減損評価を行う。

日本企業が買収評価を行う際、資金調達も考慮して円ベースの資本コストから出発することがほとんどだ。それが減損テストになって、多通貨評価になると何が起こるだろうか。日本の金利が世界最低水準にあること、株式に関する期待収益率も低いことを考えると、減損テストのベースになるディスカウントレートは、買収評価の資本コストよりも高くなると考えられるそれは、現在価値を減少させ、減損発生のリスクを上げることになる。

多くの場合、買収側の企業は資本コストそのものを使うことは少なく、リスクファクターの上乗せをするので、それで吸収できる間は大きな問題にならない。しかし、リスクファクターをぎりぎりまで圧縮して買収評価をした場合、内外資本コスト差が広がった場合は、大きな問題となり得る。

このようなリスクが現実のものとなる可能性は決して小さくはない。買収評価の際、事業評価、買収後の戦略策定をしっかり行うことが最重要であることに変わりはないが、こうしたテクニカルなリスクにも目を配る必要が出てきた。

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