日本発グローバル企業の経営者ブログ

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論説:内部留保をめぐる3つの誤解

最近、企業は人件費をケチってお金を貯めこみ、投資もしないから内部留保が増える一方だ・・・という話を聞くことがある。庶民受けするかもしれないが、誤解を生みやすい話だ。マスコミ・テレビで繰り返し現れるので、この際間違いを正しておきたい。理解している方には退屈な話かもしれないが、あらためて確認し、世の誤解を解いてほしい。

誤解その1内部留保というお金は存在しない。』

バランスシートを少しでもかじったことのある人は分かるはずだが、お金は現預金など実在する資産でありバランスシートの左側に計上される。一方、バランスシートの右側にはそれらの資産の出所、帰属先が示されており、内部留保は株主に帰属する株主資本である。だから、内部留保というお金はこの世に一円も存在しない。

誤解その2『投資と内部留保は直接関係しない』

次に、投資をしたからと言って内部留保が減るとは限らない。通常、投資は収益を生み、収益は内部留保を増やす。投資によって内部留保が減少するのは、投資が失敗に終わり損失が生じた場合か、収益以上に配当を支払った場合である。もちろん、投資の収益化に時間のかかる場合は、その間内部留保を圧迫することになる。だたら、積極的投資をする企業が、一定の内部留保を確保するのは正しい。

誤解その3『日本企業=国内企業ではない』

国内工場で生産した製品を輸出して稼ぐ、これは遠い昔、昭和の企業イメージである。このイメージを持っているから、稼いだお金でなぜ国内賃上に使い、正規雇用を増やさないのかという短絡した議論が出てくるのである。

今や多くの企業は、海外でより多くの社員を雇い、より多くの売上・収益を得ている。日本企業だからと言って、全世界で稼がせてもらった収益を国内社員のみに還元することは出来ない。やるなら、全世界でフェアな評価、インセンティブ制度に基づいてやるべきだ。当然だが、その恩恵を受けるのは、全世界の社員だ。

投資についても、投資=国内設備投資という固定観念があるようだ。現在、日本企業の投資の主力は海外だ。雇用増も同様である。

結論『内部留保は株主還元の問題だ』

話を戻すと、内部留保の増加は、投資や賃金と直接結びつける問題ではない。では何の問題か?それは株主還元策である。内部留保に直接影響を持つのは、配当政策と自社株買取りを含む株主還元策である。赤字が続いても内部留保は減るが、これは論外である。収益を伸ばしている企業ならば、内部留保は増える。調整手段は株主還元策しかない。

資産効率を改善し、成長を持続させるための財務体質を確保しつつ、適切な株主還元策を実施して内部留保をコントロールする、これこそ今日の経営者、CFOの主要ミッションである。

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